ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

月に囚われた男

月に囚われた男 (字幕版)
英/’09年製作/ダンカン・ジョーンズ監督


近未来、月の資源を採掘する孤独な作業員が企業の謀略に気づく。
労働管理とクローン技術への問題提起。3年間の契約で月に働きにきている男は、不測の事故で自らがクローンであり、オリジナルでないことを知る。契約が満期になると人知れず廃棄され、秘密の部屋に眠る新たなクローンが契約初日として目覚めさせられていた。企業が利潤を追求した結果たどり着いた究極の生命軽視を、公開から10年経った現在でも気楽に笑い飛ばすことはできないのが問題の根幹なんだと思います。
ひとりの人間を演じ分けるサム・ロックウェル

ときめきに死す

ときめきに死す [DVD]
日本/’84年製作/森田芳光監督


新興宗教の蔓延る小さな海辺のまちでの、使命を帯びた男とその世話に雇われた男女の共同生活を描く。同名小説の映画化です。
独特の世界観。無機質な暗殺指令が不器用な男を突き動かす。殺しのターゲットすらコンピュータが選び出し、それに盲目に従う人間たちの姿は滑稽を通り越して恐怖を覚えます。時代を感じるコンピュータ描写ではあるものの、AIの脅威が叫ばれる現在でも変わらない恐ろしさ。後追い情報によるとこのコンピュータ設定は原作にはなくオリジナルだとか。タイトルのときめき要素が薄れてしまったのは良し悪し別れるところ。
ストイックな殺し屋に沢田研二。医師に杉浦直樹。女は樋口可南子

阿弥陀堂だより

阿弥陀堂だより 特別版 [DVD]
日本/’02年製作/小泉堯史監督


田舎に越してきた夫婦が、人々と交流するなかで前向きになっていく姿を描く。忘れてましたが観るのは2度目。
とにかく優しい。死ぬことと生きることとがそっと隣り合う生活がそこにあり、都会疲れの夫婦は本当の「生」に触れていく。96歳のおばあちゃん、癌に蝕まれた恩師、喉の病を患う女性。彼らは自然と同化しているようにもみえるのです。阿弥陀堂からの便りは心に届く便り。死はゆっくりと近づき、病はゆっくりと回復し、そして新しい生命が芽生える。大きなサイクルのなかに私たちは生きていることに気づかせてくれる映画です。
寺尾聰樋口可南子の温かなおしどり夫婦。北林谷栄の存在感と透明感。

しゃべれども しゃべれども

しゃべれども しゃべれども
日本/’07年製作/平山秀幸監督


喋り下手を治すため若手落語家のもとに集まる人々が一歩踏み出すまでを描く。忘れてましたが観るのは二度目。
伝えたい思いがあるのに届けられないもどかしさ。ことばを商売にするもの、周囲に溶け込めないもの。さまざまな境遇あれど、誰かと心を通わせる手段としてことばは大きなツールである。うまく喋ることが大事なのではなく、どのような思いをもって喋るか。4人の悩める者たちの、なれ合い過ぎないバランスが良い。恋愛要素が果たして必要だったのかはともかく、破綻なくきれいに着地した作品だと思います。
国分太一香里奈、森本悠希、松重豊

誰も知らない

誰も知らない [DVD]
日本/’04年製作/是枝裕和監督


育児放棄された兄弟たちが懸命に生きる姿を描く。キネ旬第1位、主演の柳楽優弥カンヌ映画祭男優賞を史上最年少で受賞した作品です。
セーフティネットですくい上げきれない子どもたちがいるということ。夢と希望がなくなったとき生活は荒んでいくということ。繋ぐ手もあるということ。現実に起きた事件を題材にしたという物語は、静かに、それでいて怒りを帯びて、そこにある。この兄弟たちは自分の隣に住んでいるかもしれないのだ。彼らのそれからは描かれないけれど、どうか「未来」が存在していますように。
新人、柳楽の目力。感情を押し付けずそっと横に居てくれる韓英恵

東京暮色

東京暮色 デジタル修復版 [DVD]
日本/'57年製作/小津安二郎監督


母親が蒸発し父親のもとで育てられた姉妹が、親子の在り方に悩む姿を描く。
離婚した父親、夫とうまくいっていない子持ちの姉、子供ができたのにハッキリしない恋人をもつ妹。親子の関係をうまくつくることができない家系なのでしょう。もはや呪縛といってもいいのかもしれません。ラストの姉の決意は旧型思考ではあるけれど、それまでの過程からいえばひとつ駒を進めたのは確かで、なんとか幸せになれることを祈るしかない。批判的な描き方がされていないことが救いでもあり、冷酷でもある。
原節子有馬稲子の美人姉妹。メインなのに物語に絡んでこない笠智衆の日本の父親像。

掬う

日本/’19年公演/□字ック(山田佳奈作・演出)


病床の父親をめぐって浮かび上がる「家族」の在り方。□字ック、初鑑賞。
心の濁ったところを”掬う”かのように、ずっしりえぐりにくる人間ドラマ。自分のことしか考えられない不器用な家系が、家族だからという理由で”他人”のことを考えないといけないシチュエーションに身を置かざるをえなくなる、その心身のストレスたるや。家の雨漏りのように、零れて、溜まった思いが、決壊し、溢れ出す。望んで/望まずなった「家族」は、すべてを忘れる能力でこれからも付き合っていかざるをえない。
いっぱいいっぱいの作家役に佐津川愛実。