ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

幕末純情伝

幕末純情伝
日本/’91年製作/薬師寺光幸監督


幕末の江戸、新選組沖田総司を巡り愛と自由を求めて闘う者たちのドラマ。劇作家つかこうへいの同名小説を映画化したものです。
沖田総司は女性だったというトンデモ設定のもと、未来を描く坂本龍馬と過去にしがみつく土方歳三の2人がそれぞれの信念で沖田を奪い合う。時代劇というより設定を活かした同人作品のようなつくりで、映画は非常に軽薄な印象だけれども、そこにあるのは時代のうねりの中でどう生きるかということ。ファンタジーとして割り切れるなら、アイドル映画であるということも含めて楽しめる作品でした。
反則級に可愛い牧瀬里穂渡辺謙杉本哲太は軽薄さあれどエネルギーがもっと欲しかった。

愛と哀しみのボレロ

愛と哀しみのボレロ [DVD]
仏/’81年製作/クロード・ルルーシュ監督


仏・米・独・ソの4か国にわたり、複雑に絡み合った人生模様を描く。
壮大なスケールの物語を、ひとりひとりの小さな生活描写で立ち上げていく群像劇。スペクタクルがあるわけでなく、秀でたドラマチックな出逢いと別れがあるわけでもない。なのに、3時間を一息で見せ切るその手腕に脱帽。いつか、どこかで、誰かとつながっている。辛いこともあれば嬉しいこともあり、それはボレロのように繰り返され、またしばしば同じタイミングで起こっている。他者がいて、自分がいる。
ジョルジュ・ドン、ニコール・ガルシアエヴリーヌ・ブイックスジェームズ・カーン

舞踏会の手帖

舞踏会の手帖 ジュリアン・デュヴィヴィエ監督 HDマスター [DVD]
仏/’37年製作/ジュリアン・デュヴィヴィエ監督


夫を亡くした若妻が、20年前の舞踏会で出会った男たちに会いに行く。
過去にすがるためにはじめた旅は、いつしか未来へ歩むための道に変わっていく。死を選んだもの、夢をあきらめたもの、新たな生きがいを見つけたもの…。さまざまな境遇に身を置く男たちを目の当たりにし、美化された思い出に別れを告げる。孤独を感じつつも、孤独を共有することで、孤独でなくなる。それぞれの男たちをどうにかするわけではなくあくまで主人公のみの立ち直りの物語で好感をもちました。
年齢不詳のマリー・ベル。

十二人の死にたい子どもたち

十二人の死にたい子どもたち
日本/’19年製作/堤幸彦監督


自殺志願の少年少女たちが集まる秘密の会合に、誰も知らない13人目が現れる。冲方丁の同名小説を映画化したものです。
いやそれはないだろうという突っ込みはひとまず置いておいて、ネタバレが過ぎる描き方に興醒め。ミステリーとしてもサスペンスとしても弱い。ただそれよりも、陪審員制度を舞台にした『十二人の怒れる男』や『12人の優しい日本人』を意識した設定であることは明らかで、人間ドラマとして死の評決を描けばそれでよかったのに、事件性に終始したことでテーマがぶれてしまったように思えてなりません。
名探偵は新田真剣佑。これだけ揃えたなら演劇でやればいいのに。

デューン/砂の惑星

デューン/砂の惑星 劇場公開版 [DVD]
米/’84年製作/デイヴィッド・リンチ監督


宇宙の勢力図を変える資源を巡り、救世主と予言された男が敵に立ち向かう。
詰め込みすぎてダイジェスト版のよう。宇宙を股にかけた壮大なスケールの世界観のはずなのに、個人的な復讐が動機であるように主人公の周りでなんだか小さくまとまってしまい、不完全燃焼でした。そこにあるはずの生活が見えなくて。結局スパイスと砂蟲の関係性はなんだったのかしら。砂漠の民とは、予言とは、航宙ギルドとは、超能力とは。1年クールのテレビドラマであればもっと面白くなったように思いました。
精悍な若者のカイル・マクラクラン

黒い砂礫

日本/公演中/オレンヂスタ(ニノキノコスター作・演出)


愛する人を亡くしたK2を目指す山岳家たちの物語。
なぜ命を賭けてまで山に登るのか。自然への挑戦、自分探し、お金儲け。そのどれもが絡み合わないとスタート地点にすら立てないのが世界最高峰級の山々である。K2はパキスタンウイグル自治区にまたがる世界第2位の高さを誇る山で、登頂の難しさは第1位のエベレストを凌ぐらしい。さまざまな思惑が渦巻くなかでもストイックに山にアタックする山岳隊を、舞台で描こうとした姿勢は評価できる。
宮田頌子、今津知也、松竹亭ごみ箱ほか。

ラクダ

日本/公演中(ソワレ)/16号室(八代将弥a.k.a.SABO作・演出)


女たらしのマスターの居るカフェバーに集まる女たちの狂気と愛。名古屋の劇団「room16」の作品を後身の企画団体により上演した作品です。ケースBのキャストで、初観劇。
演劇よりも映画で観たいなと思う。前半と後半とで違う作品を観たかのようで、どうもしっくりこないというのがとりあえずの感想です。3人の女たちはそれぞれの理由でイケメンの傍にいるけれども、共通するのは彼が自分を自分たらしめてくれる存在なのだろうと。それを永遠化する前半まではわかる。ただ後半は、内容ではなく視点そのものがゴシップ的展開になってしまい、主人公も一瞬作家にぶれるので、戸惑いました。あと、客席が観づらい。
主人公におぐりまさこ、マスターに渡部将之、作家にツチヤチカら。