ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

グエムル 漢江の怪物

グエムル-漢江の怪物- スタンダード・エディション [DVD]
韓国/’06年製作/ポン・ジュノ監督


突然変異した怪物に娘をさらわれた家族が奪還に挑む。
外国語映画初のアカデミー作品賞という快挙を成し遂げたポン・ジュノの名前を知ったのは当時この映画がキネ旬3位だったから。観る機会はついぞ得ずやっとの鑑賞。つまり韓国版ゴジラだったりパトレイバーⅢだったり。ただ、民主化をその手で勝ち取った韓国だからこその描写が、B級作品を社会派ドラマにしつらえているのでしょう。不思議な構成だし、消化しきれない濃厚さながら、最後まで引き込まれてしまったは確かです。
このしんどさは主演がソン・ガンホで中和されて良かったと思う。

夜明け告げるルーのうた

夜明け告げるルーのうた
日本/’17年製作/湯浅政明監督


人魚伝説のあるまちにあらわれた人魚と、少年たちの交流を描く。
心を閉ざした少年は音に興味を持ちつつも、気持ちを伝える音楽に対しては距離をおく。そんな彼の音に引き寄せられた人魚の少女。町興しの目玉として、漁業の敵として、大切な人を奪った相手として、人魚に対するまちじゅうの思惑が入り乱れるなか、斉藤和義の楽曲「歌うたいのバラッド」がすべてを洗い流す。理由もわからず途中から号泣して観ていました。まっすぐな物語を全身全霊で受け止めたので、ぐっすり眠れそうです。
湯浅監督独特の描写のキャラクターたち。

ラストレター

日本/'20年製作/岩井俊二監督


姉になりすましかつての初恋の相手に手紙をしたためる妹と、姉を一途に想い続ける小説家の物語。
登場する人々は子供も成人も老人もみんな、純真無垢な少年少女のよう。彼らはネット社会の現代にあえて手紙を書く。綴られたことばはアナログではあるけれど、ウェブ以上に時空を越えていくのです。ただ、手紙よりも写真の方が訴えるものが強かったのは残念。ストーリーもありきたりな感じがしますが、出世作『Love Letter』を覆っていたファンタジーさはなりをひそめ、25年経った現実的な悲しみと喜びがそこにある。
松たか子福山雅治よりも、広瀬すずの魅力全開。

タワー

日本/公演終了/ままごと(柴幸男作・演出)


天からの指示のもとで雑多なものを積み上げていく人々。劇団「ままごと」の新作です。
ストーリーがあるのかないのか、即興性があるのかないのか、よくわからない作品で、こういう場合は哲学するしかない。何かを積み上げることは、日々を生きることそのもの。何者かわからない天からの指示は理不尽で、それは社会そのものか。タワーを組むというとまず連想されるのは「バベルの塔」で、神に近づこうとした人類は怒りを買い、罰を受けた。我々は各々のタワーをなぜ、どのように積むのか。その先に何があるのか。
石倉来輝、大石将弘、小山薫子、柴幸男の4人芝居。

ツアー

日本/公演終了(再演)/ままごと(柴幸男作・演出)


音楽フェスへ向かう旅の途中に偶然同行することになった外国人との奇妙なロードムービー
スーツケースを車に見立て、またがって舞台上をゴロゴロと動き回る2人を、それなりの時間にわたり、観ているのはなかなか滑稽。単語の羅列のようなセリフ回しもあいまって、自分は何を観ているのだろうと思いつつも、次第に耳にこびりつき癖になってきて。人格をもつ(ようにみえる)カーナビをアクセントにしながら、「おままごと」のような「ツアー」は進み、終わる。不思議な体験でした。
大石将弘、小山薫子、秋草瑠衣子の3人芝居。

ジョジョ・ラビット

米/’19年製作/タイカ・ワイティティ監督


ナチスに憧れる少年が、家に隠れるユダヤ人との交流を通じて成長する。
多感な少年へのマインド・コントロールは小さな疑念から音を立てて崩れていく。第二次大戦のサイドストーリーはさまざま描かれてきましたが、これはまるでおとぎ話のような印象で、厳しい部分から目をそらしているかのよう。足の描写は秀逸で、顔よりもインパクトあり。イマジナリーフレンドである「アドルフ」が少年の忠誠心をわかりやすく具体化しかつコメディリリーフを担うも、そもそも必要だったのかしら。
少年にローマン・グリフィン・テイビス、母親にスカーレット・ヨハンソン、アドルフは監督ワイティティ自身が扮する。

グローリアス!

日本/’17年公演/シーエイティプロデュース(ピーター・キルター作、鈴木勝秀演出)


壮絶なオンチに翻弄される若手ピアニストと歌姫の交流を描く。
荒唐無稽ながら実話をもとにした作品だとか。歌いたいという欲求を実現し続けた歌姫、ただその魅力が伝わらない。金持ちで地位があるから観客は無理やり聴かされているとしか思えず、すごく嫌味だけが残る。それはこの作品の求めているものではないこともわかるんですけど。歌姫自身の人柄だったり包容力だったりが観客を勇気づけるからこそ、カーネギーホールの公演まで上り詰めることができたはずなのでそこが知りたかった。
歌姫に篠井英介、ピアニストに水田航生