ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

ムトゥ 踊るマハラジャ

ムトゥ 踊るマハラジャ[DVD]
印/’95年製作/ケー・エス・ラヴィクマール監督


使用人として働く男が財産相続の陰謀に巻き込まれる。観るのは2度目のはず。
歌に踊りにアクションにと盛りだくさんの超大作で、公開当時、日本に一大ブームを巻き起こした伝説的なインド映画です。初めて観たときは幼かったこともあって、ド派手な演出にケラケラ笑っていただけでしたが、こうしてあらためて観ると余すことなく楽しませようとする見事なエンターテインメント作品だったことに気が付きました。古さを感じないのは不思議。
おっさんなのにかっこよすぎるラジニカーントと、目で殺しにかかるミーナ。

男はつらいよ おかえり 寅さん

男はつらいよ お帰り 寅さん [DVD]
日本/’19年製作/山田洋次監督


年月が流れた浅草柴又の「くるまや」の面々の人生模様を描く。「男はつらいよ」シリーズ22年ぶりの新作です。
寅さんがいま生きているのかどうかはあえてぼかされており、総集編の感は否めないけれど物語は新たに、脱サラして作家活動を行う甥の恋愛事情を軸に進んでいく。人生の悩み事にぶつかるたびに自由人だった伯父さんの姿が目に浮かび、ちっぽけな自分を叱り励ましてくれる。大きな大きな存在だったひとりのフーテンは、いまでも家族も観客もを魅了しているのでした。
国民が彼の成長を見守ってきたといっても過言ではない吉岡秀隆。この映画のためだけにスクリーンに復帰した後藤久美子

陽暉楼

陽暉楼 [DVD]
日本/’83年製作/五社英雄監督


昭和初期の高知の花街を舞台に、女の情念を描く。宮尾登美子の同名小説の映画化ですが、原作からは大胆にアレンジされているそう。
四国という土地柄を活かしきった、土佐の気質あふれるエロスとバイオレンス。かつて愛する人を守れなかった寡黙な女衒、恋を知る真っ直ぐな桃若、居場所を探すじゃじゃ馬な珠子。それぞれが心に傷をもち、溜まり溜まった思いを爆発させる。度重なる困難に圧し潰されかけても流されることなく、たとえ先が地獄であっても自分の行く道を決めていくその姿に惚れる。
緒形拳池上季実子浅野温子

シャイン

シャイン [DVD]
オーストラリア/’95年製作/スコット・ヒックス監督


統合失調感情障害をもつ実在のピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴッドの半生を描く。
親の呪縛と病気の進行、そして音楽への情熱。天才の紆余曲折波乱万丈の成功体験、と一言で片づけてしまうのはあまりに乱暴で、彼の才能と人柄に触れ、集まる人々がことごとく温かく献身的であったことこそが、彼が劇中でたびたび発せられる「ラッキーボーイ」たる逆証明でもあります。多くを語り過ぎず、それでいて心をまさぐる脚本が見事でした。
演奏はヘルフゴッド自身によるものだけれども、ジェフリー・ラッシュの没入する演技は圧巻。

畜生たちの楽園

日本/公演終了(ソワレ)/劇団不労社(西田悠哉作・演出)


人里離れたコミューンで繰り広げられる惨劇。劇場主催の「次世代応援企画break a leg」選出劇団による公演です。
新興宗教の雰囲気漂う閉鎖的な共同体に流入してくる人々は、次第にその価値判断が変化していく。時に暴力的に、時に自然と、本人が気づくことなく侵食されていく不安感。題材は古いのだけれども、この構造はそのまま現代のネットワーク社会に当てはめられると思います。願わくば人間ドラマがさらに深みにはまっていってほしかったということ。
群像劇。中でも永渕大河の好演が光る。

禁断の惑星

禁断の惑星 (字幕版)
米/’56年製作/フレッド・M・ウィルコックス監督


星間飛行技術が進んだ近未来に、足を踏み入れた惑星で未知の脅威に襲われる。
まだ人類が有人飛行を成功していない65年前のSF映画であり、機械類や特撮には確かに時代を感じるけれど、劇中で描かれていることは全然古びていない。隠された秘密、繁栄と衰退、進歩とエゴ。冒険ものの様相から、ヒロインの登場で恋愛要素が加わり、哲学的なラストを迎える、エンターテインメント作品としても王道をいく映画でした。
レスリー・ニールセン演じる船長はアメリカの象徴のような役どころ。アン・フランシスの美脚に目を奪われる。

走れメルス~少女の唇からはダイナマイト!

日本/’04年公演/NODA・MAP野田秀樹作・演出)


下着泥棒と青春に縛られた女の鏡越しの情愛を描く。観るのは3度目です。
未だ見ぬ君に恋焦がれ、その蜉蝣を追い求め続ける青春の焔は、死の匂いと相まって、美しく儚く狂おしい。淡く切ない恋愛模様を初期野田戯曲らしいふんだんな言葉遊びと猥雑なエネルギーで描き切る/走り抜ける普遍的な物語は、初演から45年経つ現在においてもファンから愛され続ける所以でしょう。他の野田作品よりも未完成な感じがするのも魅力的だったりします。
中村勘太郎(現・勘九郎)と深津絵里。アンサンブルまで豪華。