ラクダ
日本/公演中(ソワレ)/16号室(八代将弥a.k.a.SABO作・演出)
女たらしのマスターの居るカフェバーに集まる女たちの狂気と愛。名古屋の劇団「room16」の作品を後身の企画団体により上演した作品です。ケースBのキャストで、初観劇。
演劇よりも映画で観たいなと思う。前半と後半とで違う作品を観たかのようで、どうもしっくりこないというのがとりあえずの感想です。3人の女たちはそれぞれの理由でイケメンの傍にいるけれども、共通するのは彼が自分を自分たらしめてくれる存在なのだろうと。それを永遠化する前半まではわかる。ただ後半は、内容ではなく視点そのものがゴシップ的展開になってしまい、主人公も一瞬作家にぶれるので、戸惑いました。あと、客席が観づらい。
主人公におぐりまさこ、マスターに渡部将之、作家にツチヤチカら。
機械と音楽
日本/’19年公演(再演)/serial number(詩森ろば作・演出)
ロシア革命前後に起こった芸術運動「ロシア・アヴァンギャルド」のなかで理想と現実の狭間に揺れた建築家たちの物語。風琴工房あらためserial numberは初鑑賞です。
共産主義と社会主義の違いすらままならなず、およそ30年前ソ連とともに崩壊したと認識しています。それほど何も知らない時代の、熱き芸術論と社会論。頭で語られる理想と、寄り添うはずだった民衆の支持を得られない現実。そのギャップこそがソ連の軋みを炙り出しているようでなりません。天才と秀才が寄ってたかって夢想し、それでいて何もできなかったこの芸術運動は、芸術の社会での在り方そのものまで問うているようです。
実在の不遇の天才建築家を演じた田島亮のエナジー。浅野雅博の飄々とした演技も良い。
ドライヴ
米/’11年製作/ニコラス・ウィンディング・レフン監督
運転技術に秀でた男が恋に落ちた女性を助けるため命をかける。カンヌ映画祭で監督賞を受賞した作品です。
表稼業は自動車修理工とカースタント、裏ではどんな危険な状況でも指定地点まで車を走らせる逃がし屋として生きる冴えない寡黙な男は亭主と子供を持つ隣人の女に惚れてしまう。日常の楽しさを教えてくれた女、働く場所をくれた工場長。そんな温もりを裏社会の抗争でことごとく壊された怒りから、映画は一気にバイオレンス色を帯びる。きつめの色味と乾いた空気が画面のかっこよさを際立たせ、痺れ薬のように身体を蝕む作品でした。
二面性をもつ主人公をライアン・ゴズリング。ヒロインにキャリー・マリガン。
パラサイト 半地下の家族
韓/’19年製作/ポン・ジュノ監督
貧民街に暮らす家族が裕福な家庭に寄生していく。外国語映画初のアカデミー作品賞に輝いた記念碑的作品です。
貧富の差を軽妙に、そして会心の一撃をもって描いた作品。韓国だけではない社会問題であることが世界的評価につながったのでしょう。恵まれた生活にとってかわろうという気概はなく、ただしがみつくだけというのが現実的。問題はお金でも生活の質でもなく、沁みついた臭いである。洗っても消えず宿主の汁をすすることを選ぶ。最後、青年が未来を描こうとする安直なハッピーエンドと、それを許さなそうな映像がニクい。
軽重自在に演じ分けるソン・ガンホ。息子がチェ・ウシク、娘にパク・ソダム。