ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

北北西に進路を取れ

北北西に進路を取れ(字幕版)
米/’59年製作/アルフレド・ヒッチコック監督


密輸組織の内偵に間違われた男が命からがら逃げ続ける。
国家権力の大きな計画に巻き込まれた小さな一市民には人権はないに等しいということ。謎の敵に命を狙われるだけでも大変なのに、敵でも見方でもない組織の思惑が働いたとあってはなすすべなく、設定の巧さにうなります。そんななかでこれだけ身の危険を感じても色恋を逃さないのはさすがとしか言いようがない。ラスト、歴代大統領の顔を彫ったラシュモア山での攻防はインパクト大でした。
ケーリー・グラントエヴァ・マリー・セイント。敵役にジェームズ・メイスン。

ねらわれた学園

ねらわれた学園
日本/'12年製作/中村亮介監督


転校生のもつ謎の力により支配されていく学校と、揺れ動く4人の恋模様を描く。度々映像化されている眉村卓の同名小説を新たにアニメ化した作品です。
映画版のその後という裏設定のもとでオリジナル展開をみせるストーリーはストレートな青春ラブコメでした。原作の発表された当時にはなかった携帯電話をキーアイテムに置き換え、コミュニケーションの希薄化と絆の大切さを語られるも当たり前すぎてしっくりこず。風景の描画に力を入れているのはわかりますが省略してはならないところまで描かれていないために不完全燃焼でした。
ヒロインに渡辺麻友。変な予備知識なく観てよかった、違和感なし。

マイマイ新子と千年の魔法

マイマイ新子と千年の魔法
日本/’09年製作/片渕須直監督


山口県防府市を舞台に、千年の時に空想をめぐらす少女と友達の織り成す日常を描く。作家・高樹のぶ子の自伝的小説をアニメ映画化したものです。
身近にある大小さまざまな別れの数々を経験して成長していく、厳しくも優しい豊かな物語。空想を逃げ道とせず、未来志向をもって描かれているのが新鮮にうつります。テレビもない頃の設定ながら千年前に思いをはせてしまえば小さな年代差でしかなく、純粋に笑って、怒って、悲しむことの大切さは変わることがないんだなあということがじんわり染み入る良作でした。
福田麻由子水沢奈子

髑髏城の七人 Season花

日本/’17年上演/TBS(中島かずき作、いのうえひでのり演出)


信長亡き後、荒野の関東で第六天魔王を名乗る男の暴走をとめるべく立ち上がる7人の姿を描く。劇団☆新感線が7年に一度上演する人気作の劇場こけら落とし連続シリーズ第一弾です。
前作から6年しか経っていないのに上演が決まったのは解せないけれど、360度シアターという特殊な構造(映像では体感できませんでしたが)を使いこなし、かつオープニングに相応しい作品となれば仕方ない。全体的に冗長で、なのにダイジェスト版を観ているかのような繋がらない感情を追うのは少ししんどかったです。とはいえ要所はおさえていて、エンターテインメントとしては紛れもなく一級品。
年をまたいで鳥・風・月(上限・下弦)・極とキャストを変えて続く一発目は前作から引き続きの小栗旬と、成河、山本耕史清野菜名青木崇高、りょうの布陣。

東京オリンピック

東京オリンピック [DVD]
日本/’65年製作/市川崑総監督


日本で初めて開かれた64年のオリンピックの記録映画。市川崑和田夏十白坂依志夫谷川俊太郎の共同脚本によるドキュメンタリーです。
一歩間違えれば国粋映画になってしまうものを、文芸に踏みとどまったその作家性たるや。公開当時から批判が大きかったようですが、「スポーツと文化の祭典」であるオリンピックの「文化」面をしっかり担ったといえます。既存の建物の破壊からはじまる映像は、一連の狂騒を平和の夢と断じ、どう現実にしていくのか問いて終わる。願わくば2021年に開催を予定する東京大会の記録映画がこの映画の先にありますよう。
選手、運営、観客たちすべてが等しく登場人物でした。

グッド・バイ

日本/上演中(再演)/地点(三浦基作・演出)


太宰治の遺作となった未完成の小説を「地点」が上演した作品です。
横一列のバーカウンターに大正・昭和初期の衣装をまとった役者がずらりと並び、壁の上では「空間現代」が生演奏する空間構成。登場人物は「グッド・バイ」の台詞だけでなく太宰の分身としてもそこに存在し、酒に溺れてくだをまきながらさまざまなものに訣別をする。変拍子にのせて度々発声される「グッ」「ド」「バァイ」の重なりが退廃的だが高揚感もあり、文字通り酔いしれることのできる観劇体験でした。
いつもどおり役者の声がフル活用されるも、もはや演技というより空間現代とのセッションに近い。至福。

殺意 ストリップショウ

日本/’20年公演/世田谷パブリックシアター(三好十郎作、栗山民也演出)


ひとりのストリップダンサーが自らの引退公演にて波乱の半生を語る。近年再評価の進む三好十郎による70年前の戯曲上演です。
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう現代日本において、7月に観客を入れての上演を行った気骨精神は、三好作品の上演になんとも相応しい。劇場主催公演であったことや一人芝居なので客席との距離が取りやすいことなど条件が重なったのでしょうが、劇場の灯はこうして守られていく。作品は、第二次大戦を境に尊敬し愛した男に失望し殺意を覚える女を通じて、その感覚が特殊なものではなく誰にでもあるものだと書く。
体当たりな演技の鈴木杏