ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

東京オリンピック

東京オリンピック [DVD]
日本/’65年製作/市川崑総監督


日本で初めて開かれた64年のオリンピックの記録映画。市川崑和田夏十白坂依志夫谷川俊太郎の共同脚本によるドキュメンタリーです。
一歩間違えれば国粋映画になってしまうものを、文芸に踏みとどまったその作家性たるや。公開当時から批判が大きかったようですが、「スポーツと文化の祭典」であるオリンピックの「文化」面をしっかり担ったといえます。既存の建物の破壊からはじまる映像は、一連の狂騒を平和の夢と断じ、どう現実にしていくのか問いて終わる。願わくば2021年に開催を予定する東京大会の記録映画がこの映画の先にありますよう。
選手、運営、観客たちすべてが等しく登場人物でした。

グッド・バイ

日本/上演中(再演)/地点(三浦基作・演出)


太宰治の遺作となった未完成の小説を「地点」が上演した作品です。
横一列のバーカウンターに大正・昭和初期の衣装をまとった役者がずらりと並び、壁の上では「空間現代」が生演奏する空間構成。登場人物は「グッド・バイ」の台詞だけでなく太宰の分身としてもそこに存在し、酒に溺れてくだをまきながらさまざまなものに訣別をする。変拍子にのせて度々発声される「グッ」「ド」「バァイ」の重なりが退廃的だが高揚感もあり、文字通り酔いしれることのできる観劇体験でした。
いつもどおり役者の声がフル活用されるも、もはや演技というより空間現代とのセッションに近い。至福。

殺意 ストリップショウ

日本/’20年公演/世田谷パブリックシアター(三好十郎作、栗山民也演出)


ひとりのストリップダンサーが自らの引退公演にて波乱の半生を語る。近年再評価の進む三好十郎による70年前の戯曲上演です。
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう現代日本において、7月に観客を入れての上演を行った気骨精神は、三好作品の上演になんとも相応しい。劇場主催公演であったことや一人芝居なので客席との距離が取りやすいことなど条件が重なったのでしょうが、劇場の灯はこうして守られていく。作品は、第二次大戦を境に尊敬し愛した男に失望し殺意を覚える女を通じて、その感覚が特殊なものではなく誰にでもあるものだと書く。
体当たりな演技の鈴木杏

私たちは何も知らない

日本/’19年公演/二兎社(永井愛作・演出)


世の婦人が立ち上がるきっかけとなった雑誌「青鞜」をつくった人々の群像劇。
教科書では一文で終わる出来事にも背景がある。「平塚らいてふ」という単語に血が通い、共に歩みまたは袂を別った人々と闊達に議論しては悩む姿に、現代の人間が共感する意義は大きい。だからこそ、ボロボロになるまで駆け抜けた彼女らを若さ故と矮小化するような「青春群像劇」という公式コピーには首をひねります。力強く、骨太に描く永井愛の筆は常に厳しく、優しい。それだけでいい。
朝倉あきによる平塚像は新鮮で衝撃。

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 (字幕版)
英/’11年製作/フィリダ・ロイド監督


西欧初の女性首相となった政治家の半生を描く。メリル・ストリープがアカデミー主演女優賞を獲得しました。
男社会に風穴を開け、数々の政治的功罪を残したサッチャー。「鉄の女」と揶揄されるほどの強いイメージからほど遠い、弱った姿で登場するインパクトたるや。決断に次ぐ決断に悩む姿は等身大で好感を覚えます。とはいえ、現実と回想を繰り返すかたちで進むストーリーにはありきたりな感じが拭えず。短い時間に全人生を収めようとした結果ダイジェスト版のようになってしまっており、もう少しじっくりとした視点で観たかったです。
圧巻のメリル。

天地創造

天地創造 [DVD]
米・伊/’66年製作/ジョン・ヒューストン監督


旧約聖書を壮大なスケールで描く文芸作品。
使命、みたいなものなのでしょうか。文化圏の違いで「聖書」がどのような存在なのかいまいち理解できないので、この作品への評価もよく捉えきれないのが本音。しかし描かざるをえなかった、そんな信念が滲み出る大作でした。CGが発達していない時代にあれだけのものをつくったのはもはや狂気。総論として、聖書をテーマとしたドキュメンタリーシリーズの総集編劇場版といったところかしら。
リチャード・ハリスジョージ・C・スコットピーター・オトゥールジョン・ヒューストン錚々たる顔ぶれ。

バニーレークは行方不明

バニー・レイクは行方不明 (字幕版)
英/’66年製作/オットー・プレミンジャー監督


アメリカからイギリスに引っ越してきたばかりの子供が失踪する。
知らない場所で、頼れるものがほとんどない状況で起こる事件。子供が消えたことそのものより、誰も信じてくれない不安と、真実が明らかになってからの恐怖が渦巻く。偶然に頼りすぎな行き当たりばったりな犯行で首をひねっていると、ああそういうことかと。科学捜査が進み、携帯電話や防犯カメラの普及率が高い現代では考えにくいストーリーなので、防犯能力に安堵するとともに犯罪も高度化してるんだろうなと感想は脇道に逸れていきます。
キャロル・リンレイケア・ダレーの兄弟。渋い警察にローレンス・オリヴィエ