ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

あの記憶の記録

日本/’17年公演(再々演)/劇団チョコレートケーキ(古川健作、日澤雄介演出)


イスラエルに住む家族が、語られなかったアウシュビッツの記憶をこじあける。様々な賞に輝く劇団、初鑑賞です。
ホロコーストを題材にした人間ドラマは、海外戯曲かと誤認するかのごとく、その筆は太く。使命感でも贖罪でもなく、それを語らざるをえないというリアルに、押し潰されるようでした。憎しみの連鎖は断ち切れるのか、個人に優先される「国」があるのか、という問いは、深く、重い。
妻役の吉田久美による最後の台詞は満点。

学校

学校 [DVD]
日本/’93年製作/山田洋次監督


夜間中学に通うさまざまな境遇の生徒と教師の交流を描く。
幸せとは、学ぶとは、生きるとは。最も身近であり、それでいて最も難しい設問について、じっくり考える機会なんてほとんどなくて。でもこうして1本の映画と出会うことで、立ち止まって考えてみる。そんな機会が生まれることが楽しくて、こうして映画を観ているのだと思います。
お茶目で頼りがいのある西田敏行。抜群の存在感の田中邦衛

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
米/’16年製作/デイビッド・イェーツ監督


法律で禁止されている魔法動物をまちに放してしまったことから巻き起こる騒動を描く。「ハリー・ポッター」シリーズのスピンオフ作品です。
英文学ファンタジーアメリカナイズされるとこうなってしまうのか。設定がわかりにくいのはさておき、現実世界における魔法のなんでもありさは無粋でしかなく、ワクワクもハラハラもしませんでした。人が死んでも忘れて終わりってそれはないでしょう。あとビーストがファンタジックでないのが致命的。
主人公エディ・レッドメインはどういう立ち位置なのか。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? [DVD]
日本/’17年製作/新房昭之監督


不思議なガラス玉の力でパラレルワールドを渡り歩く甘酸っぱい青春模様。岩井俊二の原作をアニメ映画化したものです。
映像はハイクオリティですが、いまいち入ってこないもどかしさ。積み重なる「もしも(if)」の世界がご都合主義であり、そこから抜け出すことが青春の終わりなんだとしたら、「もしも」を受け入れてしまう彼らは、与えられたモラトリアムにこもってしまっただけとしか思えない。
菅田将暉の声には違和感あれど、広瀬すずは悪くない。

劇場版 ソードアート・オンライン オーディナル・スケール

劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール- [DVD]
日本/’16年製作/伊藤智彦監督


VR世界での死闘から生還した者たちを狙った、ARゲームシステムの陰謀に立ち向かう。川原礫によるライトノベル及びそのテレビアニメの映画版です。
おおもとは未見での鑑賞。キャラクターや設定の理解にはそう時間はかからずも、過去の記憶が脅かされていくという物語のだいご味までは共有できず。拡張現実技術の進歩は目覚ましいのでこのような事件もさもありなんと思う。大掛かりな企みのわりに主人公の周りでしか展開されないのはセカイ系だからか、そこの説明は自明で省いてあるのか判断つかず。
登場人物の顔が見分けつかなくて一苦労。

夜は短し歩けよ乙女

「夜は短し歩けよ乙女」 DVD 通常版
日本/’17年製作/湯浅政明監督


片思いの相手に一歩踏み出せない青年と黒髪の乙女との不思議な一夜の物語。森見登美彦の同名小説のアニメ映画化です。
原作が描く1年間に及ぶ青年の孤軍奮闘を夢と現実が入り混じる一夜のお話にアレンジ。知的ユーモア供給過多な森見文学の再現ではなく、湯浅政明らしい気が狂いそうにゆがんだ映像に酔う作品となっているが、もう少しキュンキュンしたかったというのが本音。中村佑介デザインのキャラクターが動き喋るだけでも楽しいけれど、京都の匂いがしないのは大きな欠点でした。
星野源は個性なくそれが良し。

翔んで埼玉

日本/’19年製作/武内英樹監督


バカにされ続ける埼玉県人の誇りを取り戻すべく闘う美少年たちの物語。発表から35年ほど経ってリバイバルヒットとなっている魔夜峰央の同名漫画の実写映画化です。
関東圏にありながら「ださいたま」と呼ばれる県を自虐的に、それでいて愛情たっぷりに笑い飛ばす。トンデモ設定をラジオドラマとして扱い、現実世界のツッコミを挟むことで成立させようとしているけれど、はたしてその必要があったのかしら。設定の根はリアルなのだから映画文法に収めようとはせず、タイトルどおりもっとぶっとんでていいのに。
まさかのGACKTはまさかのハマリ役。伊勢谷友介も良し。二階堂ふみが悪いわけではないが、耽美ギャグ作品としてはヒロインも男性俳優にしてほしかった。