木と市長と文化会館 または七つの偶然
仏/’92年製作/エリック・ロメール監督
フランスの地方都市で大規模な文化会館の建設計画が進む中、さまざまな偶然の積み重なりで事態が動いていく。
政治批判であり、行政批判であり、社会批判であり、そんなことは関係ない日常のスケッチでもある。すべての物事は後になって「もしあのとき」とわかるものですが、それもきっとこの映画のようにほんの小さな「偶然」なんだろうなと思います。ドラマチックなことがなくても、そこに幾重に絡まる偶然はドラマチックであり、そう感じられる人でありたい。
絶妙なバランスのパスカル・グレゴリー。
ふるあめりかに袖はぬらさじ
日本/’12年公演(多演)/松竹(有吉佐和子作、齋藤雅文演出)
幕末の横浜の遊郭を舞台に、攘夷女郎にまつりたてられた花魁の傍で生きた芸者の半生を描く。文学座で初演された作品を坂東玉三郎主演で上演したものです。
心が、生き方が、国が、真実と嘘の見極めがきかなくなっているこの世を痛烈に皮肉った作品。好きな男と添い遂げられず自殺した花魁は生まれも死に様も虚構で塗りたくられ、罪の意識を負った男はその虚構に目をくらまし救われ、芸者は嘆くも口八丁でその虚構を芸とする。ずぶ濡れの袖をもっているのは私たち自身に他ならないのです。
坂東玉三郎、女性にしか見えず、そしてそんな些細なことなど気にならなくなる圧巻の芸。
スリーピー・ホロウ
米/'99年製作/ティム・バートン監督
科学的な弁証を求める若き弁護士が、呪われたまちで起きる殺人事件の謎を解き明かす。
ホラーと知らずに手を出して少し後悔するも、ティム・バートンらしいゴシック調のファンタジックな世界観でなんとか楽しめました。事件にはなにかトリックがあるはずだとしきりに言っていたのに、結局は亡霊の仕業というのはどうかと思う。ポンポン吹っ飛びゴロゴロ転がる生首の大量生産に辟易しつつ、主人公の大袈裟なリアクションが良き息抜き。
盟友ジョニー・デップ。ヒロインのクリスティーナ・リッチは年齢不詳。