ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

ふるあめりかに袖はぬらさじ

日本/’12年公演(多演)/松竹(有吉佐和子作、齋藤雅文演出)


幕末の横浜の遊郭を舞台に、攘夷女郎にまつりたてられた花魁の傍で生きた芸者の半生を描く。文学座で初演された作品を坂東玉三郎主演で上演したものです。
心が、生き方が、国が、真実と嘘の見極めがきかなくなっているこの世を痛烈に皮肉った作品。好きな男と添い遂げられず自殺した花魁は生まれも死に様も虚構で塗りたくられ、罪の意識を負った男はその虚構に目をくらまし救われ、芸者は嘆くも口八丁でその虚構を芸とする。ずぶ濡れの袖をもっているのは私たち自身に他ならないのです。
坂東玉三郎、女性にしか見えず、そしてそんな些細なことなど気にならなくなる圧巻の芸。