ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

ドラえもん のび太の宝島

映画ドラえもん のび太の宝島 DVD通常版
日本/’18年製作/今井一暁監督


宝島に憧れ海に出た仲間たちが、時空海賊船の陰謀に巻き込まれる。
大長編改め映画ドラえもん新シリーズとなって早や13年になります。宝島といえば『~南海大冒険』と被る題材なのでリメイク版かと思いましたが完全な新作。といっても冒頭はほぼ同じ。大掛かりな装置なのに小さな話に終始し、宝島もほとんど関係なく、魅力的なキャラクターも出ず、ゲンナリしてしまいました。
瓜二つ設定のしずかちゃんなのに、あまりそう見えないのはなぜ。

猫の恩返し

猫の恩返し / ギブリーズ episode2 [DVD]
日本/’02年製作/森田宏幸監督


猫を助けた少女が猫の国に招かれ、自分の時間を生きる大切さを知る。『耳をすませば』の登場人物が出演する、スタジオジブリ作品では珍しいスピンオフ的作品です。
久々の鑑賞。公開当時から失敗作にしか思えず、あらためて観てもやはり特筆すべきところがほとんどなくて。猫の事務所で困りごとを解決するイケメン男爵と、荒くれ者の猫の凸凹コンビの活躍は微笑ましいものの、主人公の印象の薄さといったら。根本的には、人と猫の世界の接続のあいまいさが、ジブリらしくない感じを生んでいるのではないでしょうか。
池脇千鶴の声はやわらかくて良い。

デンジャラス・デイズ:メイキング・オブ・ブレードランナー

米/’17年製作/チャールズ・デ・ラウジリカ監督


リドリー・スコット監督作『ブレードランナー』製作当時の苦難と奮闘を関係者が25年経って語ったドキュメンタリー。
いまやカルト的人気を誇るSF映画の傑作も、公開当時は評価が高まらず、興行収入も伸びず、またその過酷な製作過程と予算超過によりスタッフ間の衝突が絶えなかったそうな。勝者の目線で語られる「歴史書」としてドヤ感強めですが、残るものが名作だという主張は裏打ち充分なので何も言えません。古き良き映画づくりのひとつの貴重な資料なのでしょう。
監督から、製作総指揮、プロデューサー、出資者、各スタッフ、ハリソン・フォードら出演者と総出演。

ふるあめりかに袖はぬらさじ

日本/’12年公演(多演)/松竹(有吉佐和子作、齋藤雅文演出)


幕末の横浜の遊郭を舞台に、攘夷女郎にまつりたてられた花魁の傍で生きた芸者の半生を描く。文学座で初演された作品を坂東玉三郎主演で上演したものです。
心が、生き方が、国が、真実と嘘の見極めがきかなくなっているこの世を痛烈に皮肉った作品。好きな男と添い遂げられず自殺した花魁は生まれも死に様も虚構で塗りたくられ、罪の意識を負った男はその虚構に目をくらまし救われ、芸者は嘆くも口八丁でその虚構を芸とする。ずぶ濡れの袖をもっているのは私たち自身に他ならないのです。
坂東玉三郎、女性にしか見えず、そしてそんな些細なことなど気にならなくなる圧巻の芸。

スリーピー・ホロウ

スリーピー・ホロウ (字幕版)
米/'99年製作/ティム・バートン監督


科学的な弁証を求める若き弁護士が、呪われたまちで起きる殺人事件の謎を解き明かす。
ホラーと知らずに手を出して少し後悔するも、ティム・バートンらしいゴシック調のファンタジックな世界観でなんとか楽しめました。事件にはなにかトリックがあるはずだとしきりに言っていたのに、結局は亡霊の仕業というのはどうかと思う。ポンポン吹っ飛びゴロゴロ転がる生首の大量生産に辟易しつつ、主人公の大袈裟なリアクションが良き息抜き。
盟友ジョニー・デップ。ヒロインのクリスティーナ・リッチは年齢不詳。

グリーンブック

米/’18年製作/ピーター・ファレリー監督


黒人差別の色濃く残るアメリカ南部へ演奏旅行に向かう音楽家と、雇われ運転手のロードムービー。アカデミー作品賞受賞作です。
一番みてくれにとらわれているのは自分自身であって、がさつで素直な相棒がそのメッキを次々と剥ぎ取っていく。人種や移民の問題を抱えるアメリカのヒューマニズムはよくわかったけれど、核心には触れていないように感じます。クラシックとジャズという音楽ルーツそのものが伏線になっているのがニクい脚本でした。
タフガイで黒人嫌いで、でも自分も移民でコンプレックスの固まりなヴィゴ・モーテンセン。気品漂うも、演奏後の笑顔が嘘くさいマハーシャラ・アリ

Love Letter

Love Letter [DVD]
日本/'95年製作/岩井俊二監督


勘違いから生まれた文通によって、淡い思い出が掘り起こされていく。岩井俊二の劇場用長編映画デビュー作です。
神戸と小樽を結ぶ手紙が、忘れられない人との良い記憶を、忘れてしまっていた人との嫌な記憶を、ゆっくりと浄化する。輪郭だけで描かれる男の子の思いがこれだけまざまざと浮かび上がってくる脚本の妙たるや。小道具や伏線に唸る。雪に覆われたまちが閉じ込めた心を彷彿とさせ、それはいつか溶けるんだろうという希望ももてて良し。
意味のある2役、キュートな中山美穂