ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

花とアリス

花とアリス [Blu-ray]
日本/'04年製作/岩井俊二監督


記憶喪失と思い込ませた青年とのやり取りの中で、2人の少女の友情の終わりを描く。
青春は不安定で、不確実で、不明瞭で。強引な記憶の操作というトンデモ設定を成立させることで、美化されたり黒歴史化されたりする一瞬の時をこのように描く方法があったのかとまず驚き。詩集を読むようにめくられていく映像に酔いながら、少女間の友情が次のステージへと上った瞬間を掴み取り、あの時感じていたものがそこにあるんだなという大きな信頼を得ました。
ガラス細工のような鈴木杏蒼井優

羅生門

羅生門 [DVD]
日本/’50年製作/黒澤明監督


粗筋は過去の日記から(→id:totte:20090429)。芥川龍之介「藪の中」を黒澤明が映画化した作品です。
カズオ・イシグロノーベル文学賞で注目された「信頼できない語り手」を描いた原作。黒澤は、男が身ぐるみを剥ぎ取る同じ芥川の「羅生門」の下で語る構成とし、人間のエゴと弱さを剝き出しにさせる相乗効果を狙っているのでしょう。真実はいつも一つとは限らない世の中で、何を信じ、選び、生きていくかを常に問うてくる映画だと思います。
志村喬と雨。

「それでも夜は明ける」

それでも夜は明ける [DVD]
米/'13年製作/スティーヴ・マックィーン監督


奴隷制の残る19世紀のアメリカで、南部に拉致された黒人が12年の奴隷生活を経て帰還を果たす物語。アカデミー作品賞受賞作で、実話に基づくのだとか。
自由とフロンティアの国アメリカにおいて、奴隷制と黒人差別は大きな闇として扱われるも、その実態はいまいち掴めないというのが印象。この作品でも雇用主を基本的人権を理解しない野蛮人のように描いており、どうもフェアではないように感じてしまう。もちろんだからといって容認できるところは何もないのですが。
不屈なキウェテル・イジョフォー

「サスペリア」

伊・米/'18年製作/ルカ・グァダニーノ監督


東西冷戦中のドイツで、相次ぐ失踪者を出すバレエ団の謎に迫る。一世を風靡した同名ホラー映画(未見)のリメイクです。
ホラーと覚悟して観たけれど、どちらかといえばグロさの強いサスペンス。昼間はバレエレッスンに励む少女たちが、実は秘密の部屋で行われる恐怖のエログロ儀式に取り込まれている様を、強烈な美意識で描いたシーンは圧巻です。ファンタジーの要素が出てくると冷めてしまうので、背景のドイツ赤軍と絡めてほしかった。
まさに魔女なティルダ・スウィントン

「ミニヴァー夫人」

ミニヴァー夫人 [DVD]
米/'41年製作/ウィリアム・ワイラー監督


第二次世界大戦最中のイギリスを舞台に、幸せをかみしめる家族の物語。アカデミー賞作品賞はじめ6部門受賞作です。
日本との国力の差というものをまざまざと見せつけられるのが戦時中につくられた映画。劇中でも空襲に怯えながらも新婚旅行へ出かけたり、花の品評会まで開いてしまう。戦意高揚の狙いもあるのでしょうが、時代が移り変わるなかで変わるものと変わらないもの、そして一瞬一瞬の大切さを再確認する作品でした。
タイトルロールとはいえ特に何をするわけでもないグリア・ガースン

「鷗外の怪談」

日本/'14年公演/二兎社(永井愛作・演出)


大逆事件を通じて政府要職者と作家の狭間に悩む森鷗外の葛藤を描く。芸術選奨受賞作です。
軍人のトップに上り詰め、政府を背負う立場となった鷗外は、共産主義を容認することができない。けれども作家としては、言論や思想の自由を守りたい。幸徳秋水らの大逆事件のおり、時に弁護士側の相談に乗り、時に嫁姑問題に翻弄され、時に雑誌で筆を滑らせ謝るの謝らないの、人間臭さ満載の弱い鷗外像は新鮮でした。
金田明夫の強弱併せ持つ姿。

「アウト・オブ・サイト」

アウト・オブ・サイト [DVD]
米/'98年製作/スティーヴン・ソダーバーグ監督


銀行強盗と連邦保安官の叶わない恋の行方を描く。
ベタな展開でもスタイリッシュにしてしまうのがソダーバーグの作家性。ツッコミどころ満載のフォーリンラブなのに、ヒロインの男運が悪い設定で、さもありなんな空気を醸してくるところが単純ながらニクい。ウィットに富んでビジネスライクな犯罪者ばかりで安心して観られるというのもいい。
フェロモン全開のジョージ・クルーニーと、フェロモン全開のジェニファー・ロペス