ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン

日本/’20年製作/石立太一監督


戦争で腕を失い代筆屋を営む女が生き別れたかつての上官と巡り合う。京都アニメーションが製作する人気アニメの完結編を描いた映画版です。
本筋はありきたりで少し引いて観てしまうのですが、絡むように紡がれる小さなエピソードは涙なしでは観られません。時代は移り変わり、思いを伝える手段も電話という新たな技術が台頭する背景において、それどころか観ている現代のネット社会ならなおさら、文字を並べしたためる手紙のもつ「タイムラグ」の効果は計り知れないものがあるようです。
石川由依の透明感。

THE FIRST SLUM DUNK

日本/’22年製作/井上雄彦監督


兄を事故で亡くした沖縄出身のバスケ選手が高校インターハイで最強の相手と戦いながら過去を振り返っていく。傑作漫画の最終章を漫画家自らアニメ映画化したものです。
伝説と呼んでもいい湘北対山王戦が動いている、それだけで嬉しい。原作から主人公をPGに入れ替え、語られなかった家族描写を交えて、人としての成長を描くというのはある意味バックステージものとも捉えられて、それも好みでした。映画作品として独立して成立しているかと考えると難しいところですが、観たいものを観させてもらえたんだと思います。
全体的におっさん声なのは気になるけど、それはそれ。宮城リョータ役には仲村宗悟

竜馬の妻とその夫と愛人~と、歌使いの唄~

日本/’12年公演(再々演)/劇団東京ヴォートヴィルショー(三谷幸喜作、山田和也演出)


荒んだ生活を送る女とその周囲の人々の言動を通して坂本龍馬の存在の大きさが浮かび上がる。劇団東京ヴォートヴィルショーに三谷幸喜が書き下ろし映画化もされた作品です。
今日では歴史上の人物が息づく当時を虚実織り交ぜて切り取り、喪失感というかたちのないものをくっきりと描き出す。この作品は演劇という明確なフィクションが現実を超える良き事例と思えてなりません。皆がその影を追い求める偉大な志士は、その後歴史から一度姿を消し、再度脚光を浴びる。そんなこと関係なく、生きていたんだなあと思えるのが楽しい。
綾田俊樹が絶品、初演から唯一キャスト換えだったのにハマリ役としか思えず。佐藤B作、あめくみちこ佐渡稔も良き。

時空の旅人

時空の旅人 [DVD]
日本/’86年製作/真崎守監督


平凡な高校生たちが未来から来た男と過去へタイムスリップする。眉村卓の小説のアニメ映画化です。製作はマッドハウス
高度に管理された未来社会から逃げ出した青年。誰の何を信じるべきなのか、二転三転する中で揺らいでいく構成の妙。幸せとは自らで考えて選ぶものという明確なメッセージを受け取りました。巻き込まれた現代人があまり有機的に絡んでこれないのが気になるところですが、往年の角川映画として納得の中途半端な面白さをもった映画でした。
片言だったのがだんだん滑らかになっていく主人公の声に戸田恵子

ライチ☆光クラブ

残酷歌劇 ライチ☆光クラブ [DVD]
日本/’15年公演/丸尾丸一郎作、河原雅彦演出


美しい世界をつくるため拉致監禁や殺人を繰り返す少年たちの秘密組織の狂気を描く。古屋兎丸による同名漫画の二度目の舞台化です。
歪んだ美意識とピーターパンシンドローム。荒唐無稽ながら少年期特有の妄想に惹きつけられるのはわかる。描かれていることは生々しく、残忍で、そして尊い。丸尾のホンで、河原の演出ということで、映像ではいまいち伝わってこなかったがきっと劇場ではもっと圧倒されたのでしょう。東京ゲゲゲイの振り付けは非常に良かったです。
中村倫也と玉置玲央がバチバチ

あの日あの時の、嘘

日本/公演中(マチネ)/MousePiece-ree(わかぎゑふ作、高橋恵演出)


覆面作家稼業で売れっ子の本業は売れない作家の周りで巻き起こるドタバタ劇。俳優3人による関西のベテランユニット、初観劇です。
周年記念ともありお約束のような部分もあるのかよくわからないところもありましたが、経験と実績を重ねるおじさま方が小さな舞台を汗かいて走り回っている姿を観るだけで充実感あり。場面転換なく完全なシチュエーションコメディにしてしまった方が面白かったように思いますが、そんなことを言うのも野暮だなあと思える客席側が温かい作品でした。
森崎正弘、上田泰三、早川丈二。

supermarket!!!

日本/公演終了/劇団壱劇屋(サカイヒロト、サリngROCK、林慎一郎、ピンク地底人3号、福谷圭祐、水鳥川岳良、村角太洋、山口茜、湯浅春枝作、大熊隆太郎構成・演出)

とあるスーパーマーケットを舞台としたオムニバス作品。新しくなったin→dependent theatre 2ndにやっと行けました。
登場人物の設定を固定させたうえで、関西の最前線を行く9人の劇作家がそれぞれ腕を振るった、ちょっと珍しい形態の公演。3分割して3倍料金をとってもいいようなラインナップを惜しげもなく1作品に仕立て上げる大熊の力技とサービス精神は素晴らしい。シュールな展開が多めながら、壱劇屋らしくポップで包んであり、あっという間に終わった夢幻の時間でした。
もはや何が何やら、どれが誰やら。