ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

妻への家路

妻への家路(字幕版)
中国/’14年製作/チャン・イーモウ監督


文化大革命が終わり帰ってきた元政治犯の夫と、彼を認識できない記憶喪失の妻との時間と距離。
帰宅を待ち続ける最愛の人の隣に他人として居続けるその心境たるや。時代に翻弄されたと片付けてしまえば簡単ですが、その言葉の向こう側には生きている人がいて。直接的な表現を避けて様々なことがじんわりと浮かび上がるからこそ、誰を恨むのではなく、誰を責めるのではなく、寄り添うことを選んだ男と、両親を見守る娘に、観る者も寄り添えるのだと思います。
表情と佇まいで演技するコン・リーとチェン・ダオミン。

魔女の宅急便

魔女の宅急便 [DVD]
日本/’89年製作/宮崎駿監督


見習い魔女が様々な人生経験を経て一人前になる姿を追う。角野栄子の同名小説をスタジオジブリがアニメ映画化した作品です。観るのはこれで何度目か。
久々に観て、冒頭の旅立ちのシーンでついに親の側に感情移入してしまったんだなあと感慨深く。大きなワクワクと小さなチクチクをいっぱい連れてオトナへの一歩を踏み出してきたし、まだこれからも歩いていく。そんな背中を、パン屋のオソノさんのように、友人のウルスラのように、いつまでも温かく見守ってくれる映画なのだと思うのです。
高山みなみの2役は承知していても認識できない。

ヴェローナの二紳士

ヴェローナの二紳士 [Blu-ray]
日本/’15年公演/公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団ホリプロ(W.シェイクスピア作、蜷川幸雄演出)


恋に翻弄される男と女の喜劇。彩の国シェイクスピアシリーズのオールメール作品のひとつです。
終わり良ければ総て良しの精神過ぎて「お前いい加減にしろよ」のオンパレード。愛の誓いを簡単に破り、友情を裏切り、それを俺はこんなに苦悩してるんだぞという男。カッコイイ顔してカッコイイ台詞で語っても言っていることはクソ。一途な友人はまともかと思いきやラストにひとことだけいらんことを言う。それに比べて女性陣のたくましさたるや。
カップリングは溝端淳平三浦涼介高橋光臣と月川悠貴。月川は相変わらず性別を超える。

ある天文学者の恋文

ある天文学者の恋文(字幕版)
伊/’16年製作/ジュゼッペ・トルナトーレ監督


老齢の学者と恋仲の学生が入念に仕組まれた愛の仕掛けに自分を見つめ直していく。
ユーモアにあふれインテリジェンスな講義が、双方向の不器用な愛によって成り立っているからこそ、どのカットもどの台詞も美しいのだと思います。どのように感想を述べても映画そのものまでチープに感じられてしまうのだけれど、並行宇宙のなかではこの映画と同じ分子配列が組まれる瞬間がきっとあると信じます。
オルガ・キュリレンコジェレミー・アイアンズ

SOMEWHERE

SOMEWHERE(字幕版)
米/’10年製作/ソフィア・コッポラ監督


映画スターが空っぽな自分と対峙する。
ホテル暮らしでたくさんの美人と寝て、招聘された海外では室内プールのあるスイートルームを用意され、妻とは別れたけれど可愛い娘がいる。なのに満ち足りない、ということを嫌味なく描けているのが凄い。彼の空虚さをセレブの贅沢な悩みとしてはカテゴライズできない、もっと普遍的な何かがそこにあるような気がするのです。
ポジションに絶妙なスティーヴン・ドーフ