ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

愛と死をみつめて

愛と死をみつめて
日本/’64年製作/斎藤武市監督


難病に侵された大阪の女学生と彼女を想う東京の男子学生のプラトニックラブ。書簡集が書籍化されベストセラーとなった作品の映画化だとか。
時折顔をのぞかせる現実の非情さが刺さる。お金がなくてすぐには見舞いに来れない恋人や治療費を苦労して捻出する親のことを思うと、自分の病気のせいで皆を苦しめているように感じる一方で、誰かの役に立ちたいと入院患者の世話をかってでると誹謗中傷を受ける。それでも脆く崩れそうな心を細くつなぎとめるものは多くの優しさだったのだと思います。
吉永小百合浜田光夫。父親の笠智衆が深い。

AD-LIVE2016

「AD-LIVE 2016」第1巻 (鈴村健一×寺島拓篤) [DVD]
日本/’16年公演/AD-LIVE Project(鈴村健一作・演出)


睡眠状態から醒めない友人を救うべく新技術により心の中に会いに行く。鈴村健一がプロデュースする声優陣によるアドリブ劇の2016年9月10日キャスト版を鑑賞。
大まかな設定とストーリーに沿い、2人の出演者による90分間1本勝負。進行のためのレールがしっかり敷かれているのでほとんどグズつかないことと、演者のキャラクターづけが達者で、アドリブとはいいつつも安心して楽しめるエンターテインメント性の高い作品でした。お題の書いた紙束の入ったカバンを肩からかけており、それが偶発的かつ絶妙なアシストとなるのは発想の勝利。
鈴村健一寺島拓篤の売れない芸人愛が微笑ましい。

新聞記者

新聞記者 [DVD]
日本/’19年製作/藤井道人監督


国家の関与が色濃い事件を巡り、新聞記者と内閣府職員がそれぞれの信じる道を模索する。日本アカデミー最優秀作品賞受賞作です。
現実に起こっている真偽不明事案を織り交ぜてのフィクションのストーリーで、「忖度に負けない社会派映画」と宣伝されていたが、つまるところ一官僚の矜持を描く人間ドラマでした。陰謀論に終始している印象を受け、異論をねじ伏せられるほどの真実を暴く力を持っているとは言い難い。ただマスコミ批判映画としてとらえなおすとこれは痛烈な皮肉なのかもしれません。
官僚役に松坂桃李。記者役にシム・ウンギョン。

巴里の屋根の下

巴里の屋根の下[HDレストア版](字幕版)
仏/’30年製作/ルネ・クレール監督


恋多きパリの街角で出会った男女の恋愛模様ルネ・クレールによるトーキー第1作とのこと。
無声映画と有声映画の合いの子のような作りで、移行期の空気も感じさせる作品。主人公の都会の流行歌を路上で歌いながら販売する商売というのは、現代では成り立たないからこそ面白い。ヒロインの奔放さには驚くけれど、パリならそういうものなのかなと不思議と納得してしまいます。そういう駆け引きだったりタイミングの妙も受け入れてこその人生なのでしょう。
アルベール・プレジャンとポーラ・イレリー。

天守物語

日本/’11年公演/新国立劇場泉鏡花作、白井晃演出)


姫路城の天守に巣食う魔物と地上の鷹匠との恋愛模様。1917年に発表されたが、モノの本によると初演は1950年代だとか。
妖しさ満点、海外ものであればダークファンタジーとジャンル付けたいけど、この作品ではどうもしっくりこない。我が物顔で城の最上階に居を構える魔物が絶世の美女で、主人に腹を切らされそうな凡庸な鷹匠が美男子という設定は、もはやラノベです。ラストにデウス・エクス・マキナのような彫師が現れて大団円というトンデモ展開ですが、関係なく楽しめました。
篠井英介女形が絶品。平岡祐太も役にハマっていて良し。

アンダーグラウンド

アンダーグラウンド 2枚組 [DVD]
仏/’95年製作/エミール・クストリッツァ監督


ユーゴスラヴィアの激動の時代を描く。カンヌ映画祭パルムドール受賞作です。
エンターテインメント性を保つユーモアと、それに埋没させない悲劇を、ギリギリのバランスで語り抜く圧倒的なエネルギー。民族、宗教、イデオロギーetc、どこから切り取っても難しく、現代に至るまで混乱を生み続けているユーゴスラヴィア問題だけれども、こういった作品により「昔、あるところに国があった」と”記憶”と”記録”に残すことは大事なことだと思います。
マルコ役ミキ・マイノロヴィチ、クロ役ラザル・リストフスキー、ナタリア役ミリャナ・ヤコヴィチ

風の谷のナウシカ

日本/’19年公演/松竹(丹羽圭子・戸部和久作、G2演出)


世界の真実を解き明かすべく立ち向かう少女の姿を通して人と自然の共生を描く。同名アニメ映画の原作でもある宮崎駿による漫画全7巻を新作歌舞伎として上演したものです。
通しで7時間に及ぶ超大作。映画で描かれたのは原作の2巻までで、その結論を根本から揺るがす事態が判明する残りの5巻分も含めて上演した力技に驚嘆です。歌舞伎の定番を織り交ぜたエンターテインメント作品の色が強いのと、G2らしい大味な演出とはいえ、こういうアプローチは様々あってもいい。歌舞伎とアニメは「紙芝居」という意味で相性が良いのかもしれません。
ナウシカ役に尾上菊之助クシャナ役に中村七之助