ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

運び屋

運び屋(字幕版)
米/’18年製作/クリント・イーストウッド監督


家族を顧みなかった退役軍人が麻薬の運び屋をやりながら関係を修復していく。
金と時間を費やした事業に失敗したところを、無事故無違反の優良ドライバーとして麻薬組織に腕を見込まれる90歳という設定は良い塩梅にとぼけていて秀逸です。プライドが高く社交的な性格により、家で役に立てない自分を認められずにいたが、家族の大切さに気付くことで、晩年でありながら前時代的な思想をアップデートしながら未来に生きる姿に胸をうたれる。
老いぼれのタフガイ、クリント・イーストウッド。乙女のようなダイアン・ウィースト

グラン・トリノ

グラン・トリノ (字幕版)
米/’08年製作/クリント・イーストウッド監督


自動車会社を退職した偏屈な男が、隣家の青年と交流することで他人と触れ合う大切さを思い出していく。
過去の栄光と現在の誇りを象徴するアイテムとして登場するフォードの「グラン・トリノ」が主役を喰うほどの存在感を見せつける。戦争の後遺症を克服するというのはよくある話だけれど、年の離れた”友人”のため武器を手放してまで単身で乗り込んでいく姿は、これまでのイーストウッドを思い浮かべても衝撃的。タフガイではないかっこよさを描いていたのがよかった。
見事なクリント・イーストウッド。ビー・バンとアーニー・ハーも好感がもてるキャラクター。

デジャヴ

デジャヴ
米/’06年製作/トニー・スコット監督


国家機密プロジェクトに参加する刑事が過去を覗き見ながらテロ事件を阻止すべく奮闘する。
サスペンスチックな刑事ものだと思いきや、いつの間にかSFになっていて気持ちを立て直すのに少し手間取りました。タイムワープを活用した犯罪捜査(という名の市民監視)なんて考えたくもないですね。タイムパラドックスが主軸で、辻褄合わせをし続けてきたのにも関わらず、分岐した未来でハッピーエンドという終わらせ方は納得がいかない。
アメリカ代表デンゼル・ワシントンポーラ・パットンが妖艶。

バットマン リターンズ

バットマン リターンズ (字幕版)
米/’92年製作/ティム・バートン監督


怪人に狙われたクリスマスで賑わうまちを守る男の活躍を描く。アメコミを原作とした「バットマン」シリーズ第1作のキャスト・スタッフによる続編です。
映画史に残る悪役ジョーカーを生み出した前作に引き続き、丁寧に悪の背景まで描くのが魅力のバットマン。悲惨な生い立ちをもつ”ペンギン”に加え、新たなヒロインとして清濁併せ吞むエロティックなキャットウーマンが登場し、善悪だけでは片付けられない複雑な関係性が刺激的でした。ティム・バートンによるダークメルヘンな世界観もお見事。
マイケル・キートンミシェル・ファイファーダニー・デヴィート

Cat in the Red Boots

SHINKANSEN ☆ NEXUS vol.2 「Cat in the Red Boots」 [DVD]
日本/’07年公演/劇団☆新感線戸田山雅司作、いのうえひでのり演出)


魔法の赤い長靴をはいた猫に導かれた平凡な青年が、物語の主人公になるまでを描く。
ヨーロッパの童話や民話などを散りばめたミュージカル調ファンタジー活劇。当たり障りのないストーリーと薄っぺらいキャラクターによるオトナの学芸会ではありますが、ナヨナヨ系男子が誰かのために、そして自分のために強くなろうとする姿は掛け値なしでかっこいいもの。脚本もまとまっているので安心して楽しめるけれど、新感線作品だと思うともうちょっと魅せて欲しいところ。
生田斗真松本まりか河野まさとが輝いていて良し。

はいからさんが通る

日本/’20年公演(再演)/宝塚歌劇団花組(小柳奈穂子作・演出)


動乱の大正期に運命を翻弄されるはいからさんと青年将校恋愛模様を描く。大和和紀による同名漫画を宝塚歌劇団が舞台化したものです。
文明開化の明治を経て女性の権利が大きく謳われた時代に、ひとりの人間として自らの生き方を自らで決める主人公の姿は現代から見ても眩しく映ります。原作のコミカルな部分は残しつつ、華やかでドラマチックに描き出すのは宝塚歌劇団の本領発揮。第2幕があれもこれもで焦り気味ではあるけれど、笑って泣いて夢見て憧れて、たっぷり楽しめる作品でした。
初演と同じく柚香光と華優希。