ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

茄子 アンダルシアの夏

茄子 アンダルシアの夏 [DVD]
日本/’03年製作/高坂希太郎監督


スペインを代表する自転車レースに出場する選手が抱える地元への愛憎を描く。黒田硫黄の短編漫画をマッドハウスがアニメ化した作品です。観るのは2度目。
乾いた大地とそこに漂うヒリヒリ感を楽しむ大人のアニメ。華々しい大レースの主役は自分ではなく、錦を飾るはずの実家ではかつての恋人と兄との結婚式が開かれている。集団を飛び出しひとり孤独に逃げ続けるレース展開が主人公の境遇と心境に重なる構成の妙は、彼が振り切りたい故郷は彼を拒んでいないということで更に深みを増すのです。まるで郷土そのものである茄子の漬物のように。
人気急上昇中だったころの大泉洋

天気の子

天気の子
日本/’19年製作/新海誠監督


雨の続く東京を舞台に、家出少年と天気を操る少女とが織り成すラブストーリー。『君の名は。』で国民的作家になった新海誠の次作です。
半径数メートルの範囲で世界がまわっているかのような、いわゆるセカイ系の到達点のような作品。その狭い視野とご都合主義に辟易することが多い印象ですが、この映画においては今日日の絆やら自粛強制やらの「空気」に対して「自分勝手に生きていい」と言い放つ、一皮むけた強烈な反抗であり声援であると捉えました。できれば青春の一言で片づけられてしまう少年少女に託さずに叫んでほしかった。
醍醐虎汰朗と森七菜。

海外特派員

海外特派員 [DVD]
米/’40年製作/アルフレド・ヒッチコック監督


第二次世界大戦前夜のヨーロッパで、特ダネを追う海外特派員が陰謀に巻き込まれる。
情報を制したものが勝利するというのは戦争の鉄則。情報を得るたえには例え犯罪行為であっても、それぞれの信ずる「正義」の名のもとに遂行されるのであるからややこしい。少し詰め込み過ぎで大味な展開なのは否めませんが、追い続けるジャーナリズムを称賛しつつも恋人のためならそれすら捨てるということが勝るお国柄はすごい。ところで、以前に観たことがあるのにまったく覚えていなかったことに驚愕。
ジョエル・マクリーとラレイン・デイ

北北西に進路を取れ

北北西に進路を取れ(字幕版)
米/’59年製作/アルフレド・ヒッチコック監督


密輸組織の内偵に間違われた男が命からがら逃げ続ける。
国家権力の大きな計画に巻き込まれた小さな一市民には人権はないに等しいということ。謎の敵に命を狙われるだけでも大変なのに、敵でも見方でもない組織の思惑が働いたとあってはなすすべなく、設定の巧さにうなります。そんななかでこれだけ身の危険を感じても色恋を逃さないのはさすがとしか言いようがない。ラスト、歴代大統領の顔を彫ったラシュモア山での攻防はインパクト大でした。
ケーリー・グラントエヴァ・マリー・セイント。敵役にジェームズ・メイスン。

ねらわれた学園

ねらわれた学園
日本/'12年製作/中村亮介監督


転校生のもつ謎の力により支配されていく学校と、揺れ動く4人の恋模様を描く。度々映像化されている眉村卓の同名小説を新たにアニメ化した作品です。
映画版のその後という裏設定のもとでオリジナル展開をみせるストーリーはストレートな青春ラブコメでした。原作の発表された当時にはなかった携帯電話をキーアイテムに置き換え、コミュニケーションの希薄化と絆の大切さを語られるも当たり前すぎてしっくりこず。風景の描画に力を入れているのはわかりますが省略してはならないところまで描かれていないために不完全燃焼でした。
ヒロインに渡辺麻友。変な予備知識なく観てよかった、違和感なし。

マイマイ新子と千年の魔法

マイマイ新子と千年の魔法
日本/’09年製作/片渕須直監督


山口県防府市を舞台に、千年の時に空想をめぐらす少女と友達の織り成す日常を描く。作家・高樹のぶ子の自伝的小説をアニメ映画化したものです。
身近にある大小さまざまな別れの数々を経験して成長していく、厳しくも優しい豊かな物語。空想を逃げ道とせず、未来志向をもって描かれているのが新鮮にうつります。テレビもない頃の設定ながら千年前に思いをはせてしまえば小さな年代差でしかなく、純粋に笑って、怒って、悲しむことの大切さは変わることがないんだなあということがじんわり染み入る良作でした。
福田麻由子水沢奈子

髑髏城の七人 Season花

日本/’17年上演/TBS(中島かずき作、いのうえひでのり演出)


信長亡き後、荒野の関東で第六天魔王を名乗る男の暴走をとめるべく立ち上がる7人の姿を描く。劇団☆新感線が7年に一度上演する人気作の劇場こけら落とし連続シリーズ第一弾です。
前作から6年しか経っていないのに上演が決まったのは解せないけれど、360度シアターという特殊な構造(映像では体感できませんでしたが)を使いこなし、かつオープニングに相応しい作品となれば仕方ない。全体的に冗長で、なのにダイジェスト版を観ているかのような繋がらない感情を追うのは少ししんどかったです。とはいえ要所はおさえていて、エンターテインメントとしては紛れもなく一級品。
年をまたいで鳥・風・月(上限・下弦)・極とキャストを変えて続く一発目は前作から引き続きの小栗旬と、成河、山本耕史清野菜名青木崇高、りょうの布陣。