ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

スポットライト 世紀のスクープ

スポットライト 世紀のスクープ (字幕版)
米/'15年製作/トム・マッカーシー監督


聖職者の児童虐待にまつわる組織的隠ぺいを暴き出した新聞社の戦いを描く。アカデミー作品賞受賞作です。
当時の記憶も薄っすらとあるとはいえ、いま現在からたった20年前の実話であることに驚きます。カトリック社会における「教会」のもつ意味が真にわかることはないのでしょうが、その一端を感じ取れるだけの力と熱量のある映画でした。特ダネを追うことから社会のためになる記事を書くことへ意識が変わり、身近に潜む狂気や大切な人の気持ちに敏感になっていく。社会が変わるというのはそういうことなのかもしれません。
記者役にマーク・ラファロ、その上司にマイケル・キートン

シャイニング

シャイニング (字幕版)
英/’80年製作/スタンリー・キューブリック監督


避暑地のホテルの冬の管理人に雇われた一家に奇妙なことが起こる。スティーヴン・キング原作のホラー映画です。
海外のホラーはパニック色が強いので、苦手ながら観られたりします。呪いにまみれた館で正気を失っていく男。霊感のある息子が引き寄せているのかと思いきや、男自身が過去の因縁と関わりがあったかのようなラストで、結局のところ何が引き金となったのかもよくわからなかったのですが、屋外の植栽の巨大迷路や、バスルームの扉から顔を覗かせる有名なシーン等、印象的な箇所が多いのは残る映画の証しなのでしょう。
ニッと笑うジャック・ニコルソン

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
日本/’12年製作/庵野秀明総監督


前作から14年経った世界で、究極の目的に邁進する組織とそれを阻む組織の攻防のなかで目覚めた少年の姿を描く。エヴァシリーズの新劇場版にして、これまでとはまったく新しいストーリーとなった3作目です。
突然の置いてきぼりには慣れているので、あとは振り落とされないよう必死にしがみつくだけ。映画の感想としては珍しい表現もエヴァにおいてはしっくりくるのです。誰も知らない新展開なのでコアなファンじゃなくても安心して観られるというのはひとつの発明なのでは。とはいえストーリーそっちのけで映像美に酔いしれ、前作よりも面白かった気がするなとぼんやり思って、やれやれとため息をついたのでした。
確認はしていないけれど、オリジナルキャストが揃うというのはすごいこと。

ドクター・ホフマンのサナトリウム

日本/’19年公演/KAAT神奈川芸術劇場プロデュース(ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出)


フランツ・カフカの第四の未発表長編作品が発見されたことから、場所や時代が迷子になっていく。
不条理なカフカを不条理なKERAが描く、これまさに不条理演劇。そもそも現実では発見されていない作品、ということそのものが物語のキーになっているという何重構造なのかよくわからない秀逸な戯曲は、観ている側を時も場所もあちらこちらに連れまわした挙句、迷子のまま置いていく。なんという不義理、なんという不条理。舞台の上だけでとどめなかったこの作品は、その上演が不条理だったのですね。
多部未華子瀬戸康史

若おかみは小学生!

若おかみは小学生!
日本/’18年製作/高坂希太郎監督


交通事故で両親を亡くした少女が実家の旅館の若おかみとして悲しみを乗り越える姿を描く。人気児童文学シリーズのアニメ映画化です。
知りませんでしたが、子供向けに留まらない評価を受けている映画だとか。生死を彷徨う体験をしたことでやたらと霊感の強くなった女の子が奮闘するお話。四季の移ろう温泉街で、人と、あるいは人でないものと出逢い、成長していき、最後にはトラウマになっていた事故の記憶をも乗り越える。絵柄がいまいち身体に馴染まず苦労したのと、ラストの描き方がしっくりこなかったという点が重なり、総じて可もなく不可もなく。
主人公の声に小林星蘭

女と男の観覧車

女と男の観覧車 [DVD]
米/’17年製作/ウディ・アレン監督


浜辺の遊園地で働く人妻のひと夏の哀しい恋の物語。
かつて自らの不実で愛を失い、ここではないどこかを夢見る元女優。旦那はギャングに追われる娘に自らの希望を託し、連れ子の子供は火遊びで問題を起こす。家族の虚飾を遊園地という舞台が象徴。心をかき乱す恋の相手は海岸の監視員で、そもそも刹那的であることは明らかで、盛り上がるのは主人公ただ一人という鎮痛なストーリーをエンターテインメントに仕上げるウディ・アレンの才能はさすがだが、作品としては微妙な出来でした。
ケイト・ウィンスレットの疲れていても消えないオーラ。

眠れぬ夜のために

眠れぬ夜のために (字幕版)
米/’84年製作/ジョン・ランディス監督


不眠症の男が、秘密組織に追われる女を助けたことで事件に巻き込まれる。
話は大きいのに小ぢんまりとした印象。脚本が粗いのに加え、全体的に演技とセットがチープで、B級感満載。音楽が軽快なのが救いかな。あれよあれよでたくさんの人が殺され、フィクサーやら金持ちやらシンジケートやらが入り乱れ、主人公は女に振り回される。空港で銃撃戦までして主人公の人生はガラッと変わった、と言っていいのか。奥さんはどうなったのか、仕事は、これからどうするのか。気になって、夜も眠れません。
ジェフ・ゴールドブラムミシェル・ファイファー