女と男の観覧車
米/’17年製作/ウディ・アレン監督
浜辺の遊園地で働く人妻のひと夏の哀しい恋の物語。
かつて自らの不実で愛を失い、ここではないどこかを夢見る元女優。旦那はギャングに追われる娘に自らの希望を託し、連れ子の子供は火遊びで問題を起こす。家族の虚飾を遊園地という舞台が象徴。心をかき乱す恋の相手は海岸の監視員で、そもそも刹那的であることは明らかで、盛り上がるのは主人公ただ一人という鎮痛なストーリーをエンターテインメントに仕上げるウディ・アレンの才能はさすがだが、作品としては微妙な出来でした。
ケイト・ウィンスレットの疲れていても消えないオーラ。
眠れぬ夜のために
米/’84年製作/ジョン・ランディス監督
不眠症の男が、秘密組織に追われる女を助けたことで事件に巻き込まれる。
話は大きいのに小ぢんまりとした印象。脚本が粗いのに加え、全体的に演技とセットがチープで、B級感満載。音楽が軽快なのが救いかな。あれよあれよでたくさんの人が殺され、フィクサーやら金持ちやらシンジケートやらが入り乱れ、主人公は女に振り回される。空港で銃撃戦までして主人公の人生はガラッと変わった、と言っていいのか。奥さんはどうなったのか、仕事は、これからどうするのか。気になって、夜も眠れません。
ジェフ・ゴールドブラムとミシェル・ファイファー。
月に囚われた男
英/’09年製作/ダンカン・ジョーンズ監督
近未来、月の資源を採掘する孤独な作業員が企業の謀略に気づく。
労働管理とクローン技術への問題提起。3年間の契約で月に働きにきている男は、不測の事故で自らがクローンであり、オリジナルでないことを知る。契約が満期になると人知れず廃棄され、秘密の部屋に眠る新たなクローンが契約初日として目覚めさせられていた。企業が利潤を追求した結果たどり着いた究極の生命軽視を、公開から10年経った現在でも気楽に笑い飛ばすことはできないのが問題の根幹なんだと思います。
ひとりの人間を演じ分けるサム・ロックウェル。
ときめきに死す
日本/’84年製作/森田芳光監督
新興宗教の蔓延る小さな海辺のまちでの、使命を帯びた男とその世話に雇われた男女の共同生活を描く。同名小説の映画化です。
独特の世界観。無機質な暗殺指令が不器用な男を突き動かす。殺しのターゲットすらコンピュータが選び出し、それに盲目に従う人間たちの姿は滑稽を通り越して恐怖を覚えます。時代を感じるコンピュータ描写ではあるものの、AIの脅威が叫ばれる現在でも変わらない恐ろしさ。後追い情報によるとこのコンピュータ設定は原作にはなくオリジナルだとか。タイトルのときめき要素が薄れてしまったのは良し悪し別れるところ。
ストイックな殺し屋に沢田研二。医師に杉浦直樹。女は樋口可南子。
阿弥陀堂だより
日本/’02年製作/小泉堯史監督
田舎に越してきた夫婦が、人々と交流するなかで前向きになっていく姿を描く。忘れてましたが観るのは2度目。
とにかく優しい。死ぬことと生きることとがそっと隣り合う生活がそこにあり、都会疲れの夫婦は本当の「生」に触れていく。96歳のおばあちゃん、癌に蝕まれた恩師、喉の病を患う女性。彼らは自然と同化しているようにもみえるのです。阿弥陀堂からの便りは心に届く便り。死はゆっくりと近づき、病はゆっくりと回復し、そして新しい生命が芽生える。大きなサイクルのなかに私たちは生きていることに気づかせてくれる映画です。
寺尾聰と樋口可南子の温かなおしどり夫婦。北林谷栄の存在感と透明感。