ノブをまわすと

その日観た映画や、演劇をはじめとした舞台公演に、ちょっとした感想でも。

グローリアス!

日本/’17年公演/シーエイティプロデュース(ピーター・キルター作、鈴木勝秀演出)


壮絶なオンチに翻弄される若手ピアニストと歌姫の交流を描く。
荒唐無稽ながら実話をもとにした作品だとか。歌いたいという欲求を実現し続けた歌姫、ただその魅力が伝わらない。金持ちで地位があるから観客は無理やり聴かされているとしか思えず、すごく嫌味だけが残る。それはこの作品の求めているものではないこともわかるんですけど。歌姫自身の人柄だったり包容力だったりが観客を勇気づけるからこそ、カーネギーホールの公演まで上り詰めることができたはずなのでそこが知りたかった。
歌姫に篠井英介、ピアニストに水田航生

喝采

日本/’17年公演/加藤健一事務所(クリフォード・オデッツ作、松本祐子演出)


酒におぼれたかつての名優を再起させたい演出家と、役者の妻の攻防。
2幕の急展開についていけるか不安になりましたが何とか喰らいつきました。創造活動するにあたっての焦りや不安といったプレッシャーは誰でも覚えがあり、それを乗り越えるためにはたくさんの支えが必要であること。ただ、今作の注目すべきは、内助の功になりがちな妻が母親的存在やお守りのような役目ではなく、自立したひとりの人間として認めてほしいと葛藤する視点で描かれているところ。最後の拍手は彼女への喝采でもあるのです。
役者に加藤健一、妻に竹下景子、演出家に山路和弘

raw 精神と肉体の展覧会

日本/公演終了/HI×TO


「精神と肉体の展覧会」と銘打ったダンス公演。結成まもない団体、初鑑賞。
客席に挟まれたランウェイのようなステージに、ペンキにまみれた裸の女性が座っている。その周りを黒に身を包んだ人々が身体を動かすコンテンポラリー作品。ダンスは門外漢で見慣れないのですが、突き詰められた肉体の隅々を眺められるというのは、彫刻展示を観覧するのとはまた違う充足感が得られます。特に今作は「展覧会」ということだったので、欲を言えばオールスタンディングでホール内を自由に歩けたら嬉しかった。
庄波希、新宅加奈子。

マッチ売りの少女

日本/公演中(マチネ)/劇団不労社(別役実作、西田悠哉演出)


晦日の夜、平凡な夫婦の夜のお茶会にストレンジャーが現れる不条理劇。別役の代表作のひとつを大阪の劇団が京都で上演したものです。
以前に映像で観た作品より小劇場風味で、それが効果的だったかというと少し微妙なところ。童話「マッチ売りの少女」を下敷きにしたグロテスクなユーモアがもっとえぐりに来てくれてもよかったのに。余計と思われる付け足しが気になってしまうのが拭えませんでした。外の寒さと室内の暖かさ、社会の寒さと家族の温かさ、そこにあるヒヤリとしたもの。新年より年末に観たい芝居。
夫婦に西田悠哉と宮前旅宇、ストレンジャーに村田千晶とイトヲ。

ムンク|幽霊|イプセン 美術館パフォーマンス

日本/公演中/第七劇場×愛知県芸術劇場×愛知県美術館(E.ムンク・H.イプセン原作、鳴海康平演出)


ムンクの絵画をモチーフに、ムンクのことばを紡ぐ美術館内でのモノローグパフォーマンス。
イプセン「幽霊」を題材にした絵画を新たに所蔵したことにより、美術館と劇場の複合施設であることを活かしたコラボ企画。あわせて劇場では「幽霊」の上演もあり。こういった取り組みは他ジャンルの接続に非常に有意義だと思うので是非適宜行って欲しい。パフォーマンスは、ムンクの人となりの前知識がないと何が何やら、わかる前に終わってしまうので、こちらにも一展示という意味でキュレーションが必要だったのでは。
配役表を配って欲しかった。

マスカレード・ホテル

マスカレード・ホテル DVD 通常版
日本/’19年製作/鈴木雅之監督


連続殺人事件の発生場所に指定されたホテルに潜入する刑事とホテルマンが互いの仕事を果たす。東野圭吾の同名小説の映画化です。
さまざまな人間が集まるホテルという場を存分に活かしたグランドホテル形式の作品。ただ軸となる事件の影が薄すぎるのと、サイドストーリーが多すぎるのとで、オールスターキャストの顔見世で終わってしまっていて残念。「マスカレード」というタイトルもあまり効いておらず。ホテルマンのプライドと刑事のプライド、それぞれが認め合い成長するというわかりやすい展開なので気楽に観られるという意味ではあり。
いつもどおりの木村拓哉長澤まさみ松たか子が喰う。

ブレードランナー2049

ブレードランナー 2049 (字幕版)
米/’17年製作/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督


前作『ブレードランナー』から30年後のアメリカを舞台に、人造人間を取り巻く陰謀を描く。
世界観やシナリオを引き継ぐ正統な続編。ウトウトしながら観てしまいストーリーは断片的にしか掴めずも、消息を絶った前作の主人公デッカードがキーパーソンとなり、生命や進化の在り方を問う。現代のAIにも通じる根源的なテーマは観る側の脳を刺激するのは確か。ただ映像への驚きやワクワクはあまりなく、ただただ暗い雰囲気に打ちのめされるばかりでした。ヒロインが非実在という発想は面白い。
ライアン・ゴズリングとアナ・デ・アルマス。デッカードはもちろんハリソン・フォードが続投。